2017.06.02更新

男女問題、最頻の質問

 私は「弁護士ドットコム」の「みんなの法律相談」というネット相談コーナーで毎日のように回答しているが、この質問を見ない日はないと言っても良いくらいの頻出問題である。同コーナーで回答する殆どすべての弁護士が同じような回答を日々繰り返すのも見慣れた光景となっている。それくらい、不貞がありふれた問題ということもあるだろうし、当事者が金額を気にするのは当然なのだが、大方の場合、当事者を満足させる額は提示できない(特に離婚しない場合は)。

慰謝料算定の要素1 離婚するかしないか

 不貞に対して慰謝料請求ができるのは、それが配偶者に対して負う貞操義務の違反に当たる不法行為であり、不貞相手はその共同行為者に当たるため。慰謝料は被害者が負った精神的苦痛を補填するための損害賠償であるから、苦痛の程度が大きいほど慰謝料額はあがる。しかし、苦痛といっても感じ方は人それぞれであるから、客観的な要素から苦痛の程度を測っている。 不貞は夫婦関係の平和を破壊する行為である。不貞が原因で離婚に至れば、夫婦関係は完全に破壊されたことになるから、苦痛の程度も大きいということになり、慰謝料額に反映される。離婚しない場合は、離婚する場合と比して苦痛の程度が小さいということになり減額につながる。 一般に、離婚する場合は2~300万、離婚しない場合は100万前後として、50万~150万程度と見ておいていい。裁判例の中には400万円という実務家にとっては高額な慰謝料を認めた例もあるし、離婚しない場合でも200万超になった例もあるが、一応、上記の枠に収まることが多いと考えておくべきだ。それぞれの枠でどの程度の額になるかは、以下の諸事情を踏まえて判断される。

2 増額に傾く事情

・不貞期間が長い・婚姻期間が長い(個人的には疑問。新婚で不貞をされた人だってダメージは大きいだろう)・不貞がなされるまでは円満な夫婦関係だった・主導的な役割を果たした・不貞によって妊娠、出産した・(離婚しない場合)別居に至り、修復困難な状態になっている・発覚後の対応がひどく不誠実である・応訴態度が悪い、など

3 減額に傾く事情

・不貞期間が短い・婚姻期間が短い・夫婦関係が相当に悪化していた・従属的ないし他方が積極的だった(配偶者の場合は貞操義務を負っており、主として責任を担う立場であるから、このような弁解は通らないだろう。また、不貞当事者間の責任の度合いは、請求者との関係では無関係であり、求償割合で決すべきとする立場もある。)・発覚後、夫婦関係が修復した・不貞相手または不貞配偶者に対し、執拗に連絡する、SNSに侮辱的なメッセ-ジを書く、職場に言いふらすなど、請求者の行きすぎた行為

4 無関係と思われる事情・相手の収入、資産の多寡(金持ちだからといって責任が重いということにはならない)・相手の職業(ただし、職業上の立場を利用して関係をもった事案では、判決でそのことを非難されており、金額に影響した可能性がある。私見では、関係を持つにあたり果たした役割、主導性という観点で考慮すべきである)5 職場、実家には行くな 減額に傾く事情の中で、請求者側の行きすぎた行為を挙げた。相手に制裁を加えたいという気持ちから、職場に密告することを望む当事者は少なくない。しかし、不貞という純粋なプライベート上の問題は、もとより勤務先には無関係であり、請求者の行為はプライバシー侵害や名誉毀損の不法行為になる可能性がある。SNSへの投稿も同様である。これらの行為は減額事由になるだけでなく、相手から不法行為に当たるとして反訴を提起されるリスクもある。法的な手段に則って請求する以上、自分も法を遵守して冷静になる必要がある。 なお、不貞当事者としては、職場に明るみになった結果懲戒処分がくだっても、争う余地があることを覚えておきたい。ただし、業務時間中に不貞に及んでいた場合は懲戒されても文句は言えない。

6 不真正連帯債務と求償の問題 不貞当事者が負っている損害賠償債務は、不真正連帯債務といわれ、「二人で計〇〇円払う」という関係になる。そのため、まず配偶者から〇〇円、さらに不貞相手から〇〇円という二重取りはできない。先にいくらか支払われたときは、他方から支払われる額は減少する(最悪、0)ことを知っておきたい。 また、一方が損害賠償をしたときは、他方に対して求償することが出来る。たとえば、不貞をした夫が妻に100万円支払ったとき、夫は不貞相手に対して、自分が払った額の何割かを請求できる。この例の場合、夫は貞操義務に反した主たる責任を負うものとして、半分を超える求償請求は認められにくいだろう。3~4割になる可能性もある。とりわけ、職場の上下関係を利用したような場合は責任が重く、半分は取れないことになる。この求償権の存在故に、離婚しない場合の慰謝料請求は手間に対してほとんど経済的なメリットがない。たとえ不貞相手から200万円支払われても、100万程度が配偶者の財布(それは夫婦の財布でもある)から支払われれ、弁護士費用(報酬込みで少なくとも20%はなくなる)も引けば手元には数十万円しか残らないからだ。受任する弁護士にとっても頭の痛い問題になる。相手に求償権を放棄させる和解を結ぶこともあるが、その場合は求償割合を織り込んで控除した金額の支払いになるだろう。

 

投稿者: 弁護士石井康晶

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