2017.05.19更新

相続放棄の期限と疎遠な親族の問題

亡くなった親族(被相続人)が、プラスの財産よりもマイナスの財産(負債)を多く抱えている場合、なにもしないでいると相続人はマイナスの財産を含め、被相続人の権利義務を一括して受け継ぐことになる(包括承継)。また、多額の負債がない場合であっても、親族と疎遠にしており関わり合いを持ちたくない人もいる。こうした相続によるメリットを享受できない相続人にとって、相続放棄は唯一と言って良い救済措置になる。しかし、相続放棄は、自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内に行う必要があるところ、被相続人に身内も知らない借金があることも希でなく、3か月以内に財産すべてを把握することは必ずしも容易でない。このような場合は放棄の申述期間の延長を家庭裁判所に認めてもらうことが出来る。

しかし、もともと被相続人と疎遠にしており、相続手続に何ら関わっていない相続人は、敢えて相続放棄という手続を取ろうと考えることもなく、放置してしまっていることが多い。そして、債権者から想定外の請求がきて狼狽する。このような場合は早期に相続放棄を行い、被相続人の負債から解放されなければいけない。

 

判例による救済措置とその要件

上記のとおり、相続放棄の期限は、原則として相続開始を知ったときから3か月以内なのだが、判例上、

①被相続人に全く財産がないと信じ、

②そう信じたことに相当の理由がある場合

には、財産の存在を知ってから3か月以内であれば相続放棄が出来るように救済措置が図られている。

 

①は、プラスもマイナスも含め財産がないと信じた場合である。②は、被相続人とのこれまでの交際状況などから、財産がないと思っていても仕方がないと評価できる事情である。

実際には、上記の判断は緩やかにされている。具体例を示してみたい。

 

解決例

『被相続人の死後20年近く経過してからの相続放棄が認められたケース』

被相続人は20年近く前に他界。相続人は死後すぐに相続開始を知った。被相続人は借地上に建物を建てて家族と住んでおり、相続人も子どもの頃は同じ建物に住んでいた。死後、きょうだいの一人が建物に住み続けていたが、地代を滞納し、土地所有者の代理人弁護士から相続人全員に対して地代の請求と、土地の明け渡しを求める内容証明郵便の通知が届く。相続人は弁護士からの文書の意味がわからず放置していたところ、4か月後に裁判を起こされた。

この件では、弁護士からの通知が届いた時点で、被相続人が建物を所有していたこと、土地の借地権を持っていたことはわかったのではないか、そうすると財産の存在を知ってから3か月以上経過しており相続放棄は認められないのではないかが問題になった。

しかし、結論としては、あっさりと認められている。本件では、相続人も高齢であり、弁護士からの専門用語をちりばめた文書を見てもいまいち状況がわからなかったのは無理もない。事実確認のために動くこともなかったが、それを責められない事情があった。また、中学卒業後、すぐに就職して寮生活を続けたあと自分の過程を築いており、それ以来実家との干渉は年に1回あるかないかで、被相続人の死亡前後も遺産に関する話は出ていなかった。つまり、相続の話し合いとは全く無縁であった。

こうした事情のもとで、財産の存在を知った時点は裁判を起こされた時点であると主張し、相続放棄はあっさりと認められた。このように、例外といってもその判断は甘い。

終わりに

人の死という偶然の事情で多額の負債を負ったり、訴訟をおこされるのは堪ったものではない。債権者から請求が来たが、相続放棄の期間をとっくに過ぎているときでも諦める必要はない。

投稿者: 弁護士石井康晶

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