2016.10.03更新

離婚に際して決めること

 離婚することでお互い納得したとしても、それだけで終わりというわけには行きません。未成年の子どもがいるなら親権者を決めないといけませんし、ほかにも取り決めるべき事柄はあります。特に協議離婚では、離婚することと親権者だけ決めれば離婚できてしまうため、ほかに取り決めるべき事柄を知らないと棚上げされたままになってしまいます。失敗しないためにも、離婚に際して決めるべき事柄を知っておきましょう。ここに書いてあることを知ってから別れを切り出しても遅くありません。離婚に関連する事柄には―

1 親権

2 養育費

3 面会交流

4 財産分与

5 慰謝料

6 年金分割

 

があります。

 

1 親権者の指定

 未成年の子どもがいるときは、両親のどちらが親権を持つのか決めないと離婚できません。ここで争いがあるときは、調停や裁判で解決するしかありません。

 調停では話し合いの場が持たれるので、親権に納得できなければ調停で解決することは出来ず、裁判で決めることになります。裁判所が判断する際の事情として

 は、

  1 現在までの養育状況(主に誰が監護してきたか、その監護の在り方はどのようなものか)

  2 今後の養育環境の見通し(自分が親権者となったときの監護の環境はどんなものになるか、経済状況は、親族のサポートは等々)

  3 子と親の情緒的結びつき(愛情を持った関係ができているか)

  4 きょうだい不分離(きょうだいがいる場合、なるべく一緒に育てる)

  5 面会交流の許容性(監護していない親と子が会うことを許容できているか)

 などがあります。子が幼いときは、今現在監護している親に問題が無ければ、基本的に引き続きその親を親権者とする方向に働きやすいといえます(継続性の原則)。その意味で1は重要です。

 そのため、別居するときに子を連れ去り、自分の下で育てるということが良く起こってしまいます。連れ去られた側としては、監護権者の指定・子の引渡しを家庭裁判所で早急に求めないと、相手の監護実績という既成事実が積まれかねません。もっとも、連れ去りの違法性を考慮して、連れ去り以後の監護を実績として認めないという考えも近時取られています。しかし、実際に連れ去りが起こったら早急に動くべきことは変わりません。

 両親の経済力も養育環境を考える上で判断要素になりますが、あくまで補充的な要素として考えます。男女の収入格差を考えると、このような判断は妥当でしょう。

 以前は母親優先などと言われていましたが、近時はそのような考えは採られていないと思われます。近時は5 面会交流の許容性が重要なウェイトを占めてきました。離婚しても子が親権を得なかった親と会うことは子の福祉(しあわせ)に適うという考えから、家庭裁判所は面会交流を推進しています。配偶者への反発から面会交流を認めないと、親権の判断で不利になる可能性が生じます。これも補充的な判断要素ですが、最近になって面会交流を許容しない母親ではなく、充実した面会交流を提案していた父親を親権者とした判決がでました。

どうやって裁判所で話し合うの?

 現在の養育状況や、今後の養育方針などについて話をし、子どもが自分の意思を表明できるなら、家裁調査官というスタッフが子本人や親に聴き取りをします。子が15歳以上のときは意見を必ず聴かなくてはなりませんが、まだ小さい子どもですと意見を聴かないこともあります。聴いた場合であっても、子の意見通りに親権者が決まるとも限りません。監護している親への遠慮や葛藤で、本音を言えないと判断されることがあるためです。

 家裁調査官が調査結果を報告書にまとめ提出すると、当事者は記録を閲覧謄写できるようになります。調査官意見は裁判所にも影響するので必ず参照し、反論すべき点は反論するべきです。

親権を得るための準備は?

 養育環境を整えることです。日中働いているなら、保育園・学童保育・実家などのサポートを受けられるか、夜遅くならないうちに帰ってこられるか、休日を一緒に過ごせるか、離婚に伴って転校が必要か、引っ越すにしても同じ学区内は無理か……等々、考えることがあります。あなたが配偶者より経済力で劣っていても、深く心配する必要はありません。特に子が小さい間は、情緒的結びつきの方が大切です。また、養育費や公的扶助で金銭面をカバーすることもある程度可能です。また、近時の面会交流に関する裁判所の考えから、子を会わせることに問題が無ければ柔軟に面会について考えた方が良いでしょう。とはいえ、虐待があるときは勿論、深刻なDVがあってあなたに危険が及ぶとき、子が本心から親を嫌い会うことを望まないときなどは、面会交流の不実施に向けて戦わなければなりません。

 もしあなたが子の連れ去りにあったのなら、速やかに家庭裁判所で監護権者の指定や子の引渡審判を申し立てた方が良いでしょう。

一度決めた親権者は変更できる?

 制度上、親権者の変更は定められています。しかし、ころころ親権者が変わることは子にとっても望ましくないことから、親権者を決めてから事情の変更があったことが必要です。親権者変更では、今の親権者の元では子の福祉に反するといえるような事情が求められ、一般にハードルは高いです。なお、両親の意向で勝手に変えることは出来ません。

2 養育費

 未成熟子の養育のための費用は父母で分担し合います。ですので、親権者が決まったら親権を得なかった側が負担する形で、毎月の養育費を取り決めます。近時は養育費・婚姻費用算定表というツールで迅速に定めています。ネットでも確認できますので参照して下さい。簡単に言えば、お互いの年収(額面)と子どもの数・年齢に応じて決まります。ベースとなる年収は昨年度の源泉徴収票などをもとに決めますが、収入にばらつきがあるときは3年分の平均を取るとか、年度の途中で就職したときは月収×12+ボーナスで計算するとか、単一の方法ではありません。

 一度取り決めた養育費は、年収の大幅な増減、扶養家族の増加など理由がある場合しか変更できません。厳密には、増額や減額を求めて調停を起こすことは出来ますが、相手が応じなければそれまでです。また、養育費は急病や進学などに伴う諸費用をカバーしていません。そうした費用は事前に取り決めすることが難しいため、「協議する」という程度の合意しか出来ない場合が多いでしょう。養育費の支払期限は、子が20歳になる月までとする例が多いですが、大学進学が予想できるときは22歳までとするなど、アレンジすることも考えられます。

何を準備すれば良い?

 源泉徴収票(給与所得者)、確定申告書控え(自営)または(非)課税証明書(役場で入手)、転職したばかりなら給与明細も可

離婚するときに取り決めなかった!どうしたら?

  今からでも遅くないので,家裁の調停で養育費を請求します。通常、申立をした月からの支払になり、それ以前の養育費をまとめて回収することはあまり期待できません。また、将来分を一括して払えというのも、養育費が月々の生活費であることと反するため行われません。調停で話がまとまらない場合は、審判という手続に移行します。審判は話し合いではなく、主張と証拠を元に裁判官が判断を下す非公開の手続です。

支払が滞ったら?

 合意書があるときは訴訟を、公正証書になっていれば給与や預金口座の差押えを検討します。調停や審判で額が決定されている場合、裁判所から履行勧告をしてもらうことができますが、強制力が無いため効果は今ひとつでしょう。ただちに強制執行をすることを検討しましょう。

 

3 面会交流

 子どもと、子どもを監護していない親(非監護親)との面会に関する取り決めです。近時の家庭裁判所は原則的に実施しようとしています。

 面会について両親の対立が無く、子どももある程度成長している場合は、細かい取り決めは不要なこともあります。問題になるのは監護している親(監護親)が会わせたくないと考えているときです。このような場合、「月1回程度 〇時間」とアバウトに定めることもあれば、「毎月第3土曜日 何時から何時まで どこどこで」というように厳密に取り決めることもあります。また、年に1回以上、宿泊を伴う面会をルール化することもあります。

 親同士の不信感が強く、子どもも自分で非監護親を訪ねられるほど成長していないときは、第三者機関を伴って面会したり、家庭裁判所の一室で試験的に面会したり、手紙や写真のやり取りから始めるといった方法も考えられます。どんな方法であれ、中心になるのは「何が子どものためになるのか」という発想であることは変わりません。親権を決めるときと同じく、家裁調査官が調査を行うこともあります。

 最初に書いたように、面会交流は原則として実施する流れを作られてしまいますが、虐待やDVなどで面会の実施が不適当なときは毅然と主張し、子どもやあなた自身を守らなくてはなりません。調停委員はそれでも面会交流を実施しようとするかもしれませんが、安易に応じてはいけません。

配偶者が子どもを連れて出て行ったとき

 別居に際して片方の親が子どもを連れて行くことは珍しくありません。残された親としては、親権を争わないまでも子どもに会いたいと思うことは当然です。こういうときは、離婚調停の中で面会交流について話し合っても良いですし、面会交流のみを目的とした調停を申し立てても良いでしょう。特に配偶者がちゃんとコミュニケーションを取ろうとしない人の場合、協議で解決することは困難ですから、調停の中でルール作りを目指した方がベターです。調停がまとまらないときは審判に移行し、裁判官が最終的にルールを決定します。

約束通りに面会交流が行われないときは

 相手の不協力による場合,間接強制の申立をすることが考えられます。簡単に言えば、「約束違反、1回毎にいくら支払え」という形でペナルティを課すものです。これを行うには、面会交流のルールが詳細に定められていることが必要です。単に、「子の福祉を尊重して、月1回程度」面会交流をする、という程度の定めでは不可能です。

 また、間接強制は金銭の支払いを命じるだけで、会わせること自体を強制させるものではありません。ここまで来るのはよほど対立の強い関係ですから、面会交流が実現しない可能性も覚悟する必要があります。円滑な実施には、両親の協力が不可欠なのです。なお、実施を命じられたにもかかわらず相手の不協力で実現しなかった場合は、慰謝料請求が認められることがあります。

4 財産分与

 夫婦の共有財産を離婚に際して分割する手続です。金銭の取り決めに関する大きな柱といっていいでしょう。

特有財産と共有財産

 夫・妻が婚前から持っている財産や、親から贈与・相続を受けた財産は「特有財産」として単独所有になります。離婚に際して分ける必要はありません。

 これ以外の婚姻後に取得した財産(自宅、預貯金、車、株、保険の解約金etc…)は、どちらの名義であれ共有財産と見ても差し支えありません。財産分与の対象は、この共有財産です。

原則は2分の1ずつ

 共有財産をわけるときの割合は、原則2分の1とするのが実務です(2分の1ルール)。言い換えると、財産形成に対して2人の寄与(貢献)が等しいと見る、ということです。そうではない=自分の方が寄与が大きい(相手の寄与が小さい)というときは、その事情を明らかにしなければなりません。たとえば、給料から積み立てた金を投資に充てたところ、本人の能力で大きく利益がでたといった場合は寄与を主張できる可能性があります。ほかに、先例では、開業医が休日も働きづめで事業収入を大きく得た例で、医師である夫の寄与を半分超と認めたものがありますが、一般の給与所得者の場合は残業していてもなかなか2分の1を超える寄与は認められないでしょう。

負債は?

 分与する財産は、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた分です。ですのでマイナスが超過すれば受け取れるものもなくなってしまいます。その意味で、借金の存在はちゃんと考慮されるのですが、相手に負債を負担させることは同意が無いと困難です。また、そもそも夫婦間で借金の負担者を決めても債権者(貸し主等)には与り知らぬ話なので、「あいつに請求してくれ」とは言えないことにも注意が必要です。ただし、夫婦の間で負担する者を決めたときは、その者に対して最終的に請求できます。

何をどうやって分ける?価格はどう決める?準備するものは?

 分与の対象になる財産毎に見ていきましょう。

1)不動産(自宅)

 現在の価値をローンが上回っているとき(オーバーローン)は、売却してもお金を受け取れません。こういうときはローンの負担についても協議した方が良いでしょう。

 不動産の価値は固定資産評価証明書(役場で取得)、国税庁の路線価図(ネットで検索可)、業者の査定、鑑定といった方法で明らかにします。固定資産評価額は時価の7割程度、路線価は8割程度とされますので、これらによる評価は手軽ですが安価になります。査定は業者によって価格が変わるので、複数の査定を取り平均値を求めるといった方法が考えられます。鑑定は不動産鑑定士に依頼する必要があり、正確ですが時間も費用も掛かります。

 ローンがあるときはローン残高証明書(金融機関で入手)があると良いです。支払予定表でも代替できるでしょう。

 頭金を特有財産からだしたときは、そのぶんを寄与度として考慮することが出来ます。よく、親から送られたお金を頭金としたときに、これが自分に贈与された特有財産だという主張と、夫婦双方に贈られたものだから共有だという主張がぶつかることがあります。これは贈った側の意識がどうであったかも考え結論を出すことになります。

自分が離婚後に住みたいときは?

 家は生活の本拠地ですので、預金のように単純に2分割すればいいというものではありません。売却しない場合は夫婦のどちらかが住み続けることが多いでしょう。自宅の名義・ローン債務者が共に夫で、妻が居住希望と仮定しましょう。このとき、

 ① 夫がローンを払い続け、妻が住む 

 ② 妻が借り換えローンを払う、夫は債務者から脱ける

 ③ 妻がローンを支払うが、夫はローン債務者のまま

という形が大まかには考えられます。話を単純にするため、家の名義や固定資産税は脇に置いておきましょう。

まず、①ですが、相手の経済力や性格を見極め、ちゃんと払い続けるのかどうか考えなくてはなりません。支払が滞れば抵当権が実行され、家が他人の手に渡りますから、そのときは出て行かねばなりません。特に子どもがいない場合、別れた配偶者だけのためにローンを払い続ける人はそうそういないことに注意しましょう。離婚後1、2年で支払を止めたケースはよく目にします(当サイトの解決事例を参照して下さい)。子どもがいる場合、養育費や慰謝料の代わりに払ってもらうという選択はありますが、抱えるリスクは同様です。

次に、②ですが、借り換えを行うには金融機関が融資してくれないといけませんので、妻自身の資力が問われます。この点をクリアできれば不払いのリスクに怯えずに済みますね。

そして③ですが、妻自身がローンを支払うので不払いのリスクはありませんが、夫に送ったお金がちゃんと金融機関に引き落とされていないと金融機関に対しては不払いになってしまいます。夫への不信が強い場合は慎重になったほうがいいかもしれませんね。

住まない家の保証人になっているときは?

 逆に、家に住むつもりがなくローンも負担していなければいいのですが、自分が連帯保証している場合は厄介です。ローン債務が(主債務)が残る限り連帯保証人の責任も消えないからです。保証契約は金融機関と保証人の問題なので、配偶者の意思でどうにかできる問題ではありません。売却して代価を返済に充てるとか、金融機関と交渉し、代わりの保証人を見つけて自分は保証を脱けるといった処理を考えることになるでしょう。

2)預貯金

 夫婦で形成した預貯金は分与の対象です。婚前から持っている口座を婚姻中も使っていたときは、婚姻時の残高を差し引くことも考えられますが、生活用の口座として頻繁な入出金があったときは婚前と区別することは必要的ではないでしょう。分割するのは、別居時または離婚時の残高です。記帳されていなければ残高証明書又は取引明細書を金融機関に発行してもらいます。

 離婚を考え出した時点では、最低限、どの金融機関のどの支店に口座があるのかを知っておきましょう。もちろん、通帳のコピーまであれば文句なしです。

3)車

 ローンを考慮する必要があるのは不動産と同じです。夫婦で1台ずつ使っていたような場合は、清算せずそれぞれ持って行く程度の処理でもいいでしょう。

 車の価格は中古車市場の価格を参照します。離婚を考えた時点では、車検証のコピーがあるといいでしょう。

4)保険

 掛け捨ての保険は資産性が無いため、分与しません。解約返戻金の定めがあるものを分与対象にします。別居又は離婚時の返戻金額が対象です。保険証券を参照しましょう。特定の時点の解約金額は、保険会社に問い合わせれば判ります。

子どもの学資保険は?

 親権を得た親からすると、学資保険は将来のために残しておきたいでしょう。学資保険の扱いは別途協議し、解約せずにおくことは可能です。保険金をどちらが支払うか、契約名義の変更をするかなども併せて検討します。満期になる頃に別れた相手と連絡が取れるかも判らない場合は、契約名義を自分にうつしたほうが無難でしょう。

5)株式

 直近の株価で評価し、分与の対象にします。本人の能力によって資産形成がされたときは寄与度が変更されることもあり得ます。

 離婚を考えた段階では証券口座の情報や、最低限、銘柄を知っておきたいですね。

6)退職給付

 退職給付(退職金)は、そもそも分与の対象にするのかが問題になり得ます。少なくとも、10年以上後に定年の場合、離婚時点に存在する財産として考えられるのか、という疑問があり、数年内に退職という場合に分与対象とするのが普通でしょう。熟年離婚を考えているなら、退職間近まで待つのも手かもしれませんね。実際に計算するときは、別居時又は離婚時に自己都合退職したと仮定するのが一つの考え方ですが、これに限られません。

退職給付の内、夫婦で築いたと言えるのは、勤続期間を同居期間で割った年数です。この数字に退職金額を掛けたものが共有財産となります。退職金規程を参照する必要がありますが、相手の分は相手の協力を得ないと入手できないでしょう。

7)その他

 滞納している婚姻費用、預金の使い込みなどを考慮することも出来ます。

 

協議離婚のとき、財産分与をしなかった!

こういう場合であっても、離婚から2年以内であれば家庭裁判所で手続が取れます。

 

5 慰謝料

 慰謝料は、離婚の原因を作った側、つまり離婚について主たる責任を負う者が支払います。離婚を余儀なくさせたことは相手に対する不法行為だと考え、それに対する精神的苦痛を慰謝させるものです。

 ですので、慰謝料を請求できるのは相手に責任がある場合です。俗に言う性格の不一致などは、「どっちもどっち」ですので、慰謝料を請求する権利がありません

どういう場合に請求できる?

不貞・不貞に至らないが過度に親密な交際をした・悪意の遺棄・暴力・暴言・浪費・セックスレス(性的不能含む)・犯罪を犯したetc…

いくらぐらい取れる?

不貞の場合、離婚するなら200~300万円の範囲が一般的です。金額の算定要素としては、不貞期間の長さ、相手の妊娠の有無、現在の相手との交際状況、発覚後の交際の継続、夫婦関係の在り方、主導的役割をどちらが果たしたかなどが考えられます。

その他の場合は一概に言えませんが、100万前後から300万の範囲で見ておくと大きく外れないと思われます。結局の所、個別に相手の責任の重さ、自分の苦痛の大きさを示す資料から妥当な額を検討するしかありません。300万を超える支払を命じた例も、もちろんあります。

不貞の調査のための探偵費用を請求する例が見られますが、全額はなかなか難しいでしょう。調査を行うことの必要性、金額の妥当性などが問われます。

どうやって回収する?

 調停で、裁判で、いくら払うか決まっても、それだけでは単なる紙切れです。実際に回収できるかは相手の経済力と、財産の所在を把握しているかにかかっています。浪費で家庭が崩壊しても、そのような相手からは現実の回収を望めないことが多いでしょう。もちろん、経済力が回復したときに備えて判決などで支払義務を明らかにしておくことは有益ですが。

 ちなみに、時々訊かれることですが、自分に経済力が無くても、判決で決まる慰謝料の額には影響しません。回収されるかどうかで違いがでるだけです。

準備するものは?

 離婚原因の立証と密接に関わります。次のような資料が考えられるでしょう。

1)不貞の場合

どんな証拠?

 不貞は、配偶者以外の異性と自由な意思に基づいて行う性交渉です。性交渉があったことが直接判る証拠(行為の場面を撮影した写真、動画など。ただし顔が写っていないと証拠としての価値は弱くなります)があれば一番ですが、多くはそれを推認させる証拠(間接証拠)を積み上げることになるでしょう。ラブホテルの出入り、ラブホテルの領収証、ラインやメールでの親密なやり取り、相手の自宅への出入り写真(夜に入って朝出てきたものが価値を持つでしょう)などが挙げられます。一方、ビジネスホテルの出入りとなるとラブホテルよりも証拠価値は下がります。また、腕を組んで歩いている写真では親密なことは判りますが、性交渉を推認する力は弱くなります。配偶者の不貞を認める言葉も証拠になりますが、いつ・どこで・誰と・何したかまで明らかにさせましょう。

 同性愛は不貞そのものではありませんが、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し得ます。証拠集めは不貞と同じように考えます。

どう集める?

 興信所(探偵)、配偶者の携帯電話、PC、財布、車(カーセックスの場合、避妊具が捨ててあるかもしれません)など。

2)暴力・暴言の場合

どんな証拠?

暴力:診断書、診療録(カルテ)、傷の写真、警察の相談記録、判決書など。刑事事件化している場合、事件記録が有力な証拠です。

暴言:録音が一番です。暴言があってすぐに友人に送ったメール、その日のうちに書いた日記も証拠にはなりますが、本人の言葉ですので証拠としての価値は下がり          ます。暴言に限らず、日記は手軽に作れる「証拠」として書く方が少なくありませんが、本人の言葉は「主張」と大差ないため、信用性は要注意なのです。せめて、その日のうちに起こったことを書き、「評価」を交えず「事実」を記載しましょう(「死ねといわれた」は事実の記載ですが「暴言を吐かれた」は評価です)。

どう集める?

 病院で請求,警察の相談記録は情報開示請求で入手、刑事事件記録は利害関係人として閲覧謄写。

3)その他

性病に罹患した診断書、風俗店の会員証、浪費を示す領収証・家計簿・預貯金の取引明細・クレジットカード明細・消費者金融の督促状・破産開始決定書……事案に応じて想定できる証拠は変わります。証拠集めに関しても専門家と相談しつつ進めていくと間違いがありません。

早く離婚したくて、慰謝料の取り決めをしなかった!

離婚から3年以内であれば慰謝料請求が可能です。離婚の原因に至らない程度(1発だけ平手打ちをしたが、それ以外の暴力はなかったなど)のときは、その行為から3年以内です。

 

6 年金分割

 働いていなかった配偶者の老後のため、厚生年金等の年金額計算するベースとなる、標準報酬等を分割する制度です。大雑把に言うと、婚姻中働いていなくても、配偶者の年金の支払い実績を分けてもらい(自分も払ってきたこととし)、老後に厚生年金等の支給を受けられるようにするものです。分割割合は原則0.5、つまり半分ずつ分けることになります。

 時々誤解されている方がいますが、年金を半分に分けるのではありません。分けるのは年金を納めたという実績です。

自営業者は注意!

 年金分割の対象は厚生年金、共済年金で基礎年金を含みませんので、基礎年金しか加入していない自営業者の場合、分割を受けられません。

準備するものは?

 年金分割のための情報通知書(年金事務所で入手)、公務員の場合は共済組合に問い合わせ

どうやってする?

 合意で分割することも出来ますが、必ず書面にし、夫婦で年金事務所に赴きます。離婚調停で行う場合は、調停の最後に作る「調書」を年金事務所に持参します。離婚時に年金分割をしなかった場合は、離婚から2年以内に合意して、または家庭裁判所で手続が取れます。

 

ご自分に当てはまるケースはありましたでしょうか。人生の再出発を図る上で、離婚する際は正しい知識を持ってちゃんと準備をしなくてはなりません。あなたの人生のリスタートのお手伝いになれば幸いです。

投稿者: 弁護士石井康晶

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