2018.11.18更新

1 はじめに~解雇について知っておくべきこと

ある日突然、職場から解雇を通知されることは、労働者の生活基盤を一瞬で奪ってしまうものであり、そのダメージは計り知れません。しかし、だからこそ解雇が有効とされるには厳格な要件が要求されており、使用者側による安易な解雇を許さないのが実務です。

今回は突然解雇された労働者の例をもとに、解雇について知っておくべきことを見ていきましょう。

なお、個人の特定を避けるため、業務内容、紛争の経緯等について意図的に曖昧な記載にしてあります。

2 相談者のお話

突然の解雇と雑な対応

 相談者は宿泊施設に勤務しており、客室の清掃、受付などの業務を担当。あるとき、業務用品を取扱中に受傷。労働中におこった怪我であり、業務災害に当たることは明らかだった。相談者も労災の請求ができると考え、使用者側に必要な書類の交付を要求していた。

 しかし、1月以上経っても使用者側は書類の交付をしない。そのため相談者は手続の催促をしたが、使用者側は労災の手続きを進める代わりに、突如解雇通知をすることで返答した。この解雇通知、作成日すら書いておらず一見して雑な印象を与える。相談者は労基のアドバイスをうけて日付入りの通知書を要求したのだが、それに対して送られた解雇通知書は先の通知書とは解雇理由が異なるものだった。これでは何をもって解雇の理由としたのか、通知された側には明確に判らない。相談者は怪我で休業を余儀なくされており、労災がおりなければ生活に関わる。そこで私のもとへ相談に訪れた。さっそく、解雇無効を主張することと、労災の請求を並行して進めることに決めた。

3 解雇の効力を争う~初動対応と解雇の争い方

 解雇が有効であるためには、社会通念に照らし、解雇を相当とする客観的に合理的な理由がなければならないというのが確定した実務だ。これ自体は曖昧な基準だが、使用者側にかなり厳しい基準であり、簡単に解雇が認められることはない。しかも、本件は業務災害による休職中であり、法律上、休職中の解雇は制限される。したがって、解雇が無効であることは誰の目にも明らかだった。解雇が無効ならば、労働契約はまだ続いていることになるが、使用者が解雇を有効と主張し復職を認めないときは、使用者側の責めに帰すべき事由によって労務の提供が不可能になり、賃金を請求する権利を失わない。したがって、まずは無効を明確に主張した上で復職しうる立場にあることを明言しておくべきだろう。

 解雇無効を主張する場合、労働者は職場の復帰を求める場合と、別の職場に就業したい場合がある。後者の場合、労働者の本音は復職ではないのだが、初動では使用者に対して解雇無効を主張し、労務の提供をはかる必要がある。そうでないと、賃金を請求できない。労働者の本音がどうあれ、解雇を争う際は無効を主張せざるを得ない。その上で一定期間分の給与をえて満足することになるだろう。本件の相談者も復職を望んでいなかったが、まずは内容証明で解雇無効を主張した。あわせて、雇用契約書、就業規則の開示を求めた。

 これに対して使用者側は「無効の主張を認める」とだけ回答したものの、その他の要求はスルー。また、無効を認めると言いつつも復職にむけた措置はなんらとらないようだった。これでは実質的には解雇の有効性に拘っているようなものだ。そこで、次の段階として労働審判の申立を行うこととした。労働審判は、最大3回の期日で合意による解決ないしは裁判所の審判によって紛争の解決を図る制度であり、統計では7~8割の事案が合意によって早期に解決している。本件では解雇が無効であることは争いにならず、解雇無効を前提とした賃金の請求だけが問題となるケースなので、強い争いにならず早期解決が予見された。

 早期解決を予期していたが、結果的には予想以上に早い進展となった。労働審判の呼び出しを受けた使用者側が白旗をあげ、こちらの要求を全部呑んだことで、第1回期日前に和解できたのだった。使用者側はよほど裁判所に行きたくなかったのか、あるいは長引くほどに未払賃金がかさんで損をすると踏んだのだろう。その動機はどうあれ、早期解決を図れたのは僥倖だった。

 

 

投稿者: 弁護士石井康晶

2017.05.22更新

相談から依頼まで

依頼者は30代男性。3年ほど内縁の夫婦として暮らしていた女性が他の男性と肉体関係を持ち、その男性と交際することとなり内縁が破綻した。相手男性に対して慰謝料を請求したい。

内縁の問題点

婚姻届を出した夫婦の一方が、自由意思で配偶者以外の異性と性交渉に及ぶと不貞となり、離婚原因になるほか、その配偶者及び不貞相手のしたことは不法行為となり、それぞれに対する慰謝料請求が可能になる。不貞相手に対する慰謝料請求を認めることには異論もあるが、実務上は確立した扱いになっている。内縁夫婦の場合も、法律婚と同様に、不貞に対する慰謝料請求は可能である。ただ、法律婚とは違う立証上の問題もある。

まず、内縁の成立を立証する必要がある。法律婚なら戸籍謄本を見るだけで婚姻していることはわかるが、内縁では夫婦としての意思、生活実態があることを、相手が争う場合には証拠から明らかにすることになる。住民票が同一である、家計を同じくしているなど生活実態に関する資料の他、指輪の贈答や式を挙げている事実があればそうした事実も主張していくことになる。本件では、公的な書類を除いて女性が男性の氏を名乗っていたこと、同一世帯で連れ子と暮らしていたこと、破綻後も連れ子との面会を公正証書にして約束していたこと、女性の給与をいったん男性の口座で管理していたこと、連れ子の小学校入学を機に籍を入れる約束をしていたことなど、プラスに働く事実が多かった。結果的には立証不要だったが有利に進められる見込みはあったろう。

次に、相手が内縁配偶者の存在を知っていたことが必要だが、内縁夫婦は法律婚をした夫婦ほどには、外形から見てはっきり夫婦だとわかりにくい場合もあるだろう。不貞相手が知らない人間(たとえば、内妻の職場の同僚)の場合、不貞相手は内縁関係まではっきり知っているとは限らず、同棲している恋人がいるだけだと考えている可能性もある。このような場合は、注意すれば内縁関係の存在を知ることが出来たかどうかが問われるだろう。本件では、相手方が内縁関係を知らなかったと主張したが、一方で連れ子と3人で同居していたことは知っていた。また、自分が関係を持った時点で既に別れていたと聞いていた、とも主張したが、不貞当事者間のラインではやっと一緒になれるという発言があり、依頼者を交際の障害として捉えていたことは間違いないし、依頼者が出張中に自宅を訪ねることもあったため、こうした反論を排斥できた可能性はある。

和解、解決

本件では相手方が早々に和解に応じる気を見せたため、弁護士費用を除く請求額全額を頭金+分割払いで合意、速やかに和解が成立した。一月後、約定通りに支払がされ、業務終了。

おわりに 

本件では相手方が反論しつつも和解に応じる意向を早く見せたため、2回の期日だけで早期に解決することができた。これとは異なり全面的に争われていた場合、内縁の成立、相手方の故意という2つの争点について主張立証を尽くすことになり、相当の期間を要しただろう。

 

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.11.14更新

1 相談~退職した会社から残業代をもらっていない!

30代男性からの相談。半年ほど前に有期契約で勤めていた会社を退職した。在職中,月3,40時間は残業をしたが,会社は固定残業代を支払っているという理由で支払を拒否した,未払分を回収して欲しい。

残業代請求の考え方

今回は未払残業代の回収を依頼されたケース。請求に当たってどんな手続・方法があるのか,固定残業代で支払済みという会社の反論はどうなる?といった問題は後回しにして,まずは残業代がどれくらいあるのか,計算してみる。

1)基礎賃金額(時間単価)の計算

多くの人が月給制だと思うので,1時間当たりの単価を年収と年間労働時間から計算する。ごく大雑把に言えば,

(年収)÷(年間の所定労働時間)=時間給 だ。年収は源泉徴収票,給与明細をもとに調べ,所定労働時間は就業規則から調べる。相談の時点で就業規則がない(請求しても会社が渡さないとか,そもそも作っていない場合など)ときは,土日祝,盆と年末年始は休みといったおおまかな情報から割り出す。所定労働時間の計算をより正確に言えば,{1年-(所定の休日日数)}×1日の所定労働時間 になる。所定労働時間には休憩時間を含まないので,9時5時出勤で昼休みが1時間という会社なら,所定労働時間は7時間になる。

上で「年収」と書いたが,正確には基本給がベースになる。ただし,ここでいう基本給は給与明細の基本給額と一致するとは限らない。たとえば,交通費を実費で支給されている場合,基本給から除外されるが,定額支給されている場合は基本給に含ませることがある。職務手当などの名目で職能給が支給されているときも基本給に含ませることがある。考え方としては,実費の交通費のように,自宅から会社までの距離という,仕事の内容とは関係なく変わる手当は基本給に含めない。

こうして算出された収入を総労働時間で割ると基礎賃金が求められる。

必要なもの:給与明細,源泉徴収票,契約書,就業規則

2)残業時間・残業代の計算

本丸。まずは依頼者がどれくらい働いたのかを資料を基に求める。タイムカードで勤怠管理がされていれば打刻された時刻をもとに求めるが,これがないときは別の方法で割り出していくしかない。手帳のメモ,業務用PCの立ち上げ・シャットダウン時刻,残業中に職場の時計を撮影した写真などなど。幸い,本件ではタイムカードを一部依頼者が持っていたため,手持ちのタイムカードを元に計算する。判らない分はあとで相手に開示させ,とりあえず平均残業時間分は働いたものと推定して計算することにした。

なお,残業代は2年で時効になるので,請求しようか迷っている方は要注意だ。時効の関係で締め日と支払日を最初に確認する。

「残業」というのは,所定の労働時間を超えて労働した分が該当するが,1日8時間,週40時間という労働基準法上の制限を超えた場合,所定の労働時間内であっても残業(法外残業)になる。この制限を超えない範囲の残業は「法内残業」となり,基礎賃金の100%を払えば良い(割増にならない)。簡単に整理するとこうなる。

①1日8時間以内かつ1週40時間以内:基礎賃金の100%

②1日8時間超又は1週40時間超:基礎賃金の125%以上

③1か月60時間超:基礎賃金の150パーセント以上(ただし例外あり)

④22時から翌5時までの深夜労働:基礎賃金の125%以上

⑤法定休日労働:基礎賃金の135%以上

法外残業と深夜労働は重複するため,22時以降に働いた時間が8時間を超える場合、超える時間は150%になる。

⑤の法定休日だが,週に1日は必ず休みにしなくてはならず,その休みの日に出勤させると35%増しになる。これは法外残業とは重複しない。会社の休日と一致するとは限らない。規則で土曜が休みとされており,土曜の出勤を命じられたからといって,週に1日休めていれば休日労働には該当しない。

こうしてタイムカードを元にエクセル表に実労働時間を入力していき,割増率をかけて毎月の残業代を求めていく。

なお,残業時間は分単位まで求めるが,1か月単位で通算するときは30分未満を切り捨て,30分以上を切り上げていい。

本件では200万円近い未払があることが判った。依頼者からの聴き取りとタイムカードの記載から,十分すぎるほど働いてらしたこともわかった。そこで請求に向けてうごくことに。

 

2 実際の解決までの流れ

方針の決定:労働審判?訴訟?

この手の案件では,労働審判という早期決着を期待できる制度と,通常の裁判(訴訟)とがある。労働者としてはどちらを選んでも良い。

簡単に比較すると―

労働審判:3回以内で決着(早期解決),労働者寄り?,1回目から主張・証拠を出揃えるようにする(手持ちの証拠が少ないと向かない?)

訴訟  :労働審判よりは通常遅い(1審で半年から1年程度),控訴されるデメリット,証拠開示が充実,付加金の支払を裁判所が命じられる

一長一短あるが,未払残業代の場合,残業時間も判っていて法的な論点も無い場合は労働審判が向いていると個人的には考えている。今回は請求している期間の半分くらいしか証拠がなかったこと,固定残業代制をめぐって対立すると思われたことから訴訟にした。

付加金って何だ?

割増賃金が未払のとき,制裁的に裁判で金銭の支払を命じる制度。上限額は未払割増賃金額の100%。

重要なのは,「割増」賃金の未払だということ。法内残業は割増しではない。もうひとつは「裁判で」命じるということ。訴訟の場合に手に入る可能性がある,くらいに思った方が良いかもしれない。請求するときは使用者の悪性を主張立証することになるが,重要なのは残業時間の長さだろう。

なお,判決までに使用者が全額支払ったときは,裁判の時(判決時)に未払がないことになるため,付加金は手に入らない。

 

 

請求~訴訟まで

方針も決まっていよいよ実際にうごくことに。まずは内容証明郵便で支払とタイムカード,就業規則の開示を求めるが,何のリアクションも無し。訴訟をおこすことにした。

訴状では依頼者の職場での立場、日々の業務内容を主張した。所定の時刻を過ぎたのは遊んでいたのではなく本当に仕事が終わらない(終えることが出来ない環境)からだということを示した。

すると,相手からは予想通り固定残業代で支払済みという反論がでてきた。

固定残業代制は支払拒否の理由になる?

固定残業代には,基本給の一部に残業代が含まれているという形と,定額の手当で支払われている形がある。本件は前者の主張だった。

いずれにしても,この反論が認められるには,固定額を残業代として支給するという明確な合意が必要だ。明確と言えるためには,固定残業代の部分が基本給等と明確に区分されていることが必要だ。

基本給の一部に固定残業代が含まれているという反論は,多くの場合,この明確な区分という要件を満たさないだろう。いくらが基本給でいくらが固定残業代なのかが契約書や給与明細といった基本的な書証からわからないと「明確」にはならない。

また,定額手当として支給されている場合でも,極端な場合には合意が否定される。たとえば,基本給が固定残業代と比べて余りに低い場合,固定「残業代」は残業のために支払われたものとは認定できないことがある。

なお,固定残業代制が採用されているとしても,実際に計算した残業代が固定額を超えているときは,当然超える分を請求できる。

本件では,相手の主張する固定額は契約書にも給与明細にも現れていなかったため,「明確な区分」の要件は満たさないと予想された。

 

一方、相手からは,退職後にも給料を払っている,その給料支払いで和解したという不思議な反論が出た。給料名目で金を払われたのは事実なのだが,なぜ退職した後に「給料」を払っているのかはもらった側の依頼者にもわからない。不思議だが,金を受けとったのは事実なのでいくらか差し引かれることは覚悟した。

互いに主張と証拠が出そろった後(半年くらいか)、裁判所から和解の提案が。裁判所はこちらの請求する残業代の数字に問題はないだろうとしつつ,趣旨はよくわからないが金を受けとっていることから,それを多少考慮した金額を提示してきた。依頼者に和解を蹴った場合の予想できるデメリットを説明し,和解に応じて良いとの回答を得たので,弁護士同士で内容をチェックし和解を成立させた。

和解の注意点だが,未払賃金として支払いをうけると源泉徴収の問題が起こるので,解決金など他の名目の方が良いかもしれない。

2か月後,約束通りに支払があり,終結。初回相談から1年だった。

 

3 振り返って

 足りないタイムカードは訴訟中に相手に開示させ,残業代の再計算を行った。それまでは判っている範囲で残業時間・残業代を割り出し,平均した残業時間文は働いているものとした。使用者との力関係から,どうしても最初から証拠を完全に揃えることは難しいだろう。そういうときはわかるところまでやって速やかにうごいた方が早い。

 依頼者には是非とも,第二の職業人生を満足したものにしていただきたい。

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.10.12更新

1 相談~

 被害者支援団体を経由して相談を受けた。小さい男の子がわいせつな行為をされたとのことで,母親が相談のため来訪した。

事案の概要

 加害者が高校生の少年事件。ショッピングモール内で男児に対してわいせつな行為をした(強制わいせつ)。相談を受けた時点で家庭裁判所に送致され,鑑別所にいた。身柄事件である。少年の場合、成人よりも身柄拘束の期間が限られており,4週間以内に少年審判が開かれる。このときはすでに1週間が経過していた。

少年事件の難しさ

 少年事件は,処罰を目的とした手続ではなく,少年の教化,更生を目指す手続である。しかし,一般の人々には必ずしも受けいれらていない。被害者となると尚更である。感情を刺激しないように,言葉一つにも気を遣う必要がある。特に性犯罪はただでさえ二次被害を生まないように細心の注意を図る必要があるが,ここに少年事件特有の被害者の不満が重なると説明・説得も難しくなる。

 少年事件の審理を少年審判というが,少年審判は非公開で行われ,日程も開示されない。傍聴は殺人事件や,生死に関わる怪我を負った場合など,極めて限定的な事件でしか認められない。事件の当事者でありながら蚊帳の外に置かれる心情はいかばかりか。

 また,成人の刑事裁判の弁護士には弁護人,被害者側なら被害者参加人代理人という手続上の立場が与えられるが,少年事件の被害者側弁護士にはそのような地位がない。弁護士固有の権限というものがなく,被害者本人が出来ること(たとえば証拠の閲覧・コピー)を代わって行うだけで,役所に代理で書類の発行を申請するのと変わりはしない。そして,本人に出来ることも数少ない。本人に出来ることは,

① 証拠の閲覧・コピー

② 裁判所に対する意見陳述

③ 審判傍聴(生命侵害または生死に関わる怪我を負った場合)

④ 審判状況の説明

⑤ 審判結果の通知

がある。①で閲覧コピーの対象になる記録は法律記録と言われるもので,捜査から得られた証拠(本人の供述含む)が内容をなす。少年事件ではこの他に,少年の家庭や学校での様子,生育歴等に関わる社会記録があるが,これは閲覧の対象ではない。

②は,通常,被害者が主体的に事件に関わる唯一の機会だろう。裁判官や家裁調査官に対して事件に対する気持ちを伝える機会である。口頭でのやり取りが難しければ書面で述べることもできるし,口頭に加えて書面を出すこともできる(裁判所が記録に綴じ込めるのでむしろその方が良いだろう)。

④は審判当日の少年の様子,受け答えの内容などの説明を裁判所から受ける制度である。⑤は審判の内容,理由を開示する制度である。

 

こうしたオプションがあるものの,やはり不十分な感がぬぐえない。特に本人の様子を直接見る機会は極めて限られている。

さて,この件では傍聴が出来ないため,それを除いた全ての制度を使うことにした。相談ではなかなか犯行状況について聞くことは難しかったため,事件記録を見て内容を知ることにした。

*参考 弁護費用の問題~被害者の負担はゼロ?~

日弁連委託援助を利用した。これは一定の犯罪について,被害届の作成や告訴の代理,少年審判の支援などを日弁連の費用負担で支援するもの。示談などで加害者から金銭を受けない場合,被害者の実費負担はないことが多い。ただし現金・預貯金などの流動資産の合計額が200万円以下であることが必要だ。

2 支援活動

 まずは本人に代わって証拠の閲覧コピーを請求。少年が犯行の一部を否認していることがわかったが,他の証拠をみると弁解が通る可能性は低そうだ。あわせて裁判所書記官に今後の方針を伝える。今回は調査官に対して心情を述べることにした。裁判官に話しても良かったのだが,日程調整が難しかったため,このとき手空きだった調査官と会うことにした。限られた人員で事件を処理しているのは理解できるが,意見を述べたいのに「会えません」では困るのが本音だが……。

 その後,依頼者と再度打ち合わせをし,記録を見た上での見通しを説明。私の見立てでは少年の弁解は認められず,環境も更生するために十分とはいえないことから少年院送致もありえた。そして,心情を述べるためにまず本人に書いてもらうことにした。弁護士が依頼者の言葉を書面にまとめることは良くあるが,被害者支援のなかでは「心情」を伝えることが第一なので,まずは本人に語ってもらうことが大切だ。他人の整理された言葉では感銘力がない。

 この打ち合わせの時で,審判はすでに1週間後,調査官との面談は数日後に予定されていた。限られた期間の中でスケジュールをやりくりした結果だが,急ぐ必要があった。しかし,依頼者はよく頑張ってくれ,その日のうちにドラフトが送信されてきた。私もただちに校正,添削し,言葉や構成をいじらせてもらった。言いたいこと・伝えたいことは依頼者が知っている,それを上手く伝えるのは代理人の役割だ。何回か文書ファイルを往復させ,完成稿ができた。調査官の面談当日は,30分程度を予定していたが,大幅に超過して話を聞いてもらえた。そのことだけでも本人の満足感は大きかったようだ。

 ところで,この間に少年の親族から依頼者に対して何度も着信があった。警察に問い合わせると謝罪したくて電話をしてきたそうだが,1日に何度も電話を入れるのはどうなんだろうか……。少年にも弁護士が付いているので,こうしたことは本来弁護士を通して行うことだ、早速相手方弁護士に書面で連絡を控えるよう要請した。こうした加害者対応も支援の一つだ。

結 果

審判が終わったタイミングを見計らい,家裁に結果を通知するよう申請した。2週間ほどで回答あり。当初の見通し通りの結果であった。重い処分と言うことになるが,依頼者の要望は処分云々ではなく,少年が更生し,性犯罪を二度と犯さないことだ。本人が真摯に変われる努力をしていることを望む。

今回の件はスケジュールが慌ただしく,申請に必要な書類集めから証拠閲覧,調査官面談のスケジューリングなどドタバタしながらの活動だった。

この記事をご覧の方に少年事件の被害者がいらしたら,早め早めに弁護士などの支援者とコンタクトをとることをお勧めしたい。すぐにやれることはなくても,後に備えることはできる。

 

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.09.09更新

 持ち家に住んでいる場合,離婚に際して家をどうするかは大きな問題だ。売却するのか,どちらかが住むのか,どちらかが住むとしてローンや固定資産税の負担はどうするか?名義人ではない妻が名義人である夫に対して,離婚後もローンを払うことを希望することは珍しくない。しかし,その希望が通っても,将来にわたって住居が安泰になるかはわからない。今回の解決事例はまさにそういう問題です。

1 相談

 40代の男性。数年前に元妻と協議離婚したが,そのとき男性名義の住宅に元妻と子どもたちを住まわせ,ローンを払い続けると約束していた。しかし,収入が減って今後増収の見込みも立たないため,これ以上ローンを払い続けることが難しくなってしまった。別の弁護士の元に行ったら自己破産を勧められたが,破産はしたくない。どうしたらいいか?

2 方針

 多額のローンがあり,家を残すつもりもないときは自己破産が手っ取り早い方法ではあるが,本人の意向に反するので,交渉で立ち退きを求め自宅を売却することにした。とはいえ,ただ出て行って欲しいと言っても相手にとって受け入れるメリットは全くないため,養育費の増額と転居費用の負担を対案として用意することとした。

3 交渉

 相手方は,慰謝料代わりにローンを払うことにしたので,ローンを払わないなら慰謝料を求めると主張し当初から難航した。結婚当時の不満をつらつら述べる手紙を受けとったが,法的に慰謝料を払うような問題ではなかったため,説得を図った。当時の愚痴を聞いている内に相手方の態度も軟化し,養育費の上乗せ,転居費用の一部負担を条件に立ち退きに合意してもらった。最終的には「気持ちを解ってもらった」としてお礼を言われるまでになった。

4 感想

 こちらに法的な権利(この場合は立ち退き請求)がない場合、お願いベースで話を進めるしかないことがある。今回もそうした件だった。相手方の言い分を傾聴し続けたことが結果に繋がったのだろう。

 これから離婚しようという方は,住宅の取扱いについて問題になる可能性が高い。ローンを配偶者に払わせる場合,いつまで支払が続くか,相手の経済力や性格を考える必要があると思う。特に子どものためではなく,元配偶者のために長年ローンを払い続ける人はそうはいないだろうから,子どもの有無も大切だろう。逆に支払約束を求められている側(多くは夫)は,本当に払い続けられるのか,途中で気が変わっても簡単には決めたことを覆せないことに注意するべきだ。

 

 

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.08.01更新

 離婚する際によく話題に上がる慰謝料。ネット相談でも事務所相談でも,「相場はいくらですか?」「この金額で妥当ですか?」という質問を必ずといって良いほど受ける。皆さんの関心は主に金額にあるので,こうした疑問は当たり前。ただ,相場というのはあくまで「大体この枠に収まることが多い」という話で,実際には枠をはみ出すこともあるし,「枠」の中で具体的にいくら寄りになるかは,それこそ事実関係次第。今回の解決事例は不貞による離婚慰謝料。一般的には2~300万円の枠だが調停で減額したケース。

 

1 相談~受任

 40代・女性。夫とは別居して数ヶ月。夫が興信所を使い,依頼者の浮気を突き止めた後、家から追い出したというのが別居の経緯である。夫から離婚調停を申し立  て,親権と慰謝料を主張した。夫は子どもに対し,依頼者が子ども達を捨てたと話しており,子ども達の信頼は傷ついていた。依頼者は,こうした状況で親権を主張するより,面会交流の中で事情を話し信頼を回復したいとのこと。そこで,問題はほとんど慰謝料に絞られた。

2 調停~解決

 不貞に当たること自体は認めざるを得なかったが,夫婦関係が相当に悪化していたことは慰謝料の減額事由になるので,その点を重点的に主張した。夫婦は普段ほとんど会話もなく,食事と寝室は別,夫は土日の一部を家で過ごし,平日は会社の寮で過ごすなど,精神的なつながりは無くなっていた。不貞の期間は比較的長かったが,こうした不仲は不貞とは関係なく進んでいたから,大幅な増額事由にはならないだろう。最終的に,離婚した場合のいわゆる「相場」を大きく下回る金額で,一回当たりの支払をごく少額にして分割払いとした。その後、依頼者は子どもの誤解も解け,ちゃんと交流できていると報告をうけた。

3 ポイント

 請求される側は,相手が「相場」を盾に請求してきても簡単に応じてはいけない。請求する側は「相場」の上限付近で請求することが少なくないが,相手の経済力次第で譲歩を迫られることもある。回収コストを考えるとその方が得ということもあるだろう。

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.08.01更新

1 たらい回しにされて・・・(相談~受任まで)

 30代の女性。夫とは半年前から別居中。口げんかから発展して暴力を振るわれたことや浮気が発覚したことが別居の原因。当初はお互いに冷静になるための別居だったが,半年経っても変わらないあいてに離婚を決意した。私の所へいらっしゃるまで複数の弁護士に相談したが断られていた。というのも,離婚調停は相手の住所を管轄する裁判所で行うのだが,相手が新幹線を使う距離に住んでいたため嫌がられたようだ。たらい回しにするのはもうお終いにしようと依頼を受けることにした。ただし,実際の労力を考えると赤字はほぼ確定だ

 女性の希望は親権と慰謝料。子どもはまだ1歳で別居前から主として監護しているのは依頼者の方だった。そのため親権は全く問題なかったが,不貞をはっきり証明できる資料がなかったのが問題だった。特定の電話番号との頻繁な通話記録など親密さが判る思料はあるのだが,不貞=性交渉。セックスしたことが推認できなければ厳しい。それでも,「黒に近いグレー」には持っていけるかと思い,とにかく請求はしてみることとした。夫には分与できるほどの財産がなかったので,これがとれなければ離婚後の生活も大変である。

2 慰謝料(解決金)だけが争いに(調停~解決まで)

 遠方の裁判所で依頼者と調停をする。本人の交通費の負担は馬鹿にならないため,迅速に終わらせる必要があった。調停では慰謝料を除いてスムーズに話が進んだが,提示された解決金(呼び方にはこだわらず解決金名目にした)はこちらの想定より随分下。それでは話にならないため次回に持ち越しとなった。

 次回までの間,相手方弁護士と携帯や保険料などの各種支払について協議。法律上は親権者さえ決まれば離婚はできるものの,これまでの生活を完全に清算する以上,そんな簡単にはいかない。児童手当が相手の口座に入金される予定だったため,調停申立書の控えを依頼者に送り,役所で支払先を変更してもらった。養育のためのお金だから,養育している側が受けとるのは当然だ。別居中の方で、子を監護していない親が手当を受けとっているときは受取人変更を検討しよう

 2回目の調停では,相手の浮気に関して,依頼者が心から傷ついたことを婚姻直後からの出来事を交えて主張した。実際の話はとても痛ましいものなので公開されたブログには書けないものの,調停委員の心にも響くものだった。実際,次に我々が部屋に入ったときには,相手方も折れており,前回提示した額の1.5倍近い金額を提示してきた。おそらく,訴訟になればこれ以上取ることは難しかったと思われる。特定の異性と性交渉した証拠まではなかったからだ。もっとも,相手方の経済力から一括払いは出来ず,分割になったが。

 それにしても,証拠書類一式は第一回目に相手方にも示しているはずなのだが,なぜ今になって突然態度が変わったのか。ちゃんと見ていないのではと疑念が湧いた。

3 調停を終えて

 この方はおそらく遠方での調停を嫌がられ,複数の弁護士に断られて私の所へいらしたが,たらい回し自体本人を傷つけてしまうので,私自身はそういうことは無いようにしたい。また,証拠が不足していても,とにかくやってみることだろう。やらない限り何も取れない以上は。蛇足ながら,シングルで育てていくお母さん方は離婚後も大変だろう。元夫が十分な収入を得ていれば養育費の額も上がるが,今の時代ではあまり期待できない。解決金が取れたのは良かったが,今後の母子の大変さを思うと手放しでは喜べない。

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.06.02更新

1 海外在住の夫が生活費を入れない

 夫はある商社の海外法人に勤務。好待遇を得ているが,日本の妻に生活費を送金しなくなり困り果てた妻が当事務所を訪れた。

 妻は専業主婦で2人の娘を育てている。早速婚姻費用の請求を行おうとしたが,ひとつ問題が。

2 送達に1年?

 申立をすると裁判所は書類の副本を相手方に送達する。海外にいる夫に送達するには,当然海外宛に送達の手続を取る。こういう場合、2国間で送達に関する条約が結ばれていればその条約に従う。結ばれていなければ多国間で締結される民事訴訟条約または送達条約に相手国が参加しているかが問題になる。参加していればその条約に従って手続を取る。どの条約も結んでいない場合、外交ルートで嘱託することになるのだが,この事案ではその手続に約1年かかることがわかった。生活費を得るために1年待つというのは無理な話なので,何とか早められないか考えた。

 そんなとき,一時的に日本の実家に夫が戻るという情報を得たため,その実家を「居所」として送達場所にするように裁判所に働きかけた結果、認めてもらうことが出来た。こうして,婚姻費用分担請求の審判が開始。

3 審判~結果

 夫は弁護士を伴わず1人現れ,妻には十分な個人資産があることなどを理由に妻の生活費分を支払うことを拒んだ。

 当方は互いの収入に応じて算定するのが原則であって妻の資産を考慮する必要は無いなど縷々反論。最終的には固定額+子ども達の学費・塾代・学用品費用などを実費で支払うという提案を夫がした。算定表通りの金額よりも得になる可能性が高く(とりわけ私学に進学した場合),応諾。その場で付調停とし,解決に至った。

 

 

投稿者: 弁護士石井康晶

2016.02.29更新

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投稿者: 弁護士石井康晶

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