2018.11.18更新

1 はじめに~解雇について知っておくべきこと

ある日突然、職場から解雇を通知されることは、労働者の生活基盤を一瞬で奪ってしまうものであり、そのダメージは計り知れません。しかし、だからこそ解雇が有効とされるには厳格な要件が要求されており、使用者側による安易な解雇を許さないのが実務です。

今回は突然解雇された労働者の例をもとに、解雇について知っておくべきことを見ていきましょう。

なお、個人の特定を避けるため、業務内容、紛争の経緯等について意図的に曖昧な記載にしてあります。

2 相談者のお話

突然の解雇と雑な対応

 相談者は宿泊施設に勤務しており、客室の清掃、受付などの業務を担当。あるとき、業務用品を取扱中に受傷。労働中におこった怪我であり、業務災害に当たることは明らかだった。相談者も労災の請求ができると考え、使用者側に必要な書類の交付を要求していた。

 しかし、1月以上経っても使用者側は書類の交付をしない。そのため相談者は手続の催促をしたが、使用者側は労災の手続きを進める代わりに、突如解雇通知をすることで返答した。この解雇通知、作成日すら書いておらず一見して雑な印象を与える。相談者は労基のアドバイスをうけて日付入りの通知書を要求したのだが、それに対して送られた解雇通知書は先の通知書とは解雇理由が異なるものだった。これでは何をもって解雇の理由としたのか、通知された側には明確に判らない。相談者は怪我で休業を余儀なくされており、労災がおりなければ生活に関わる。そこで私のもとへ相談に訪れた。さっそく、解雇無効を主張することと、労災の請求を並行して進めることに決めた。

3 解雇の効力を争う~初動対応と解雇の争い方

 解雇が有効であるためには、社会通念に照らし、解雇を相当とする客観的に合理的な理由がなければならないというのが確定した実務だ。これ自体は曖昧な基準だが、使用者側にかなり厳しい基準であり、簡単に解雇が認められることはない。しかも、本件は業務災害による休職中であり、法律上、休職中の解雇は制限される。したがって、解雇が無効であることは誰の目にも明らかだった。解雇が無効ならば、労働契約はまだ続いていることになるが、使用者が解雇を有効と主張し復職を認めないときは、使用者側の責めに帰すべき事由によって労務の提供が不可能になり、賃金を請求する権利を失わない。したがって、まずは無効を明確に主張した上で復職しうる立場にあることを明言しておくべきだろう。

 解雇無効を主張する場合、労働者は職場の復帰を求める場合と、別の職場に就業したい場合がある。後者の場合、労働者の本音は復職ではないのだが、初動では使用者に対して解雇無効を主張し、労務の提供をはかる必要がある。そうでないと、賃金を請求できない。労働者の本音がどうあれ、解雇を争う際は無効を主張せざるを得ない。その上で一定期間分の給与をえて満足することになるだろう。本件の相談者も復職を望んでいなかったが、まずは内容証明で解雇無効を主張した。あわせて、雇用契約書、就業規則の開示を求めた。

 これに対して使用者側は「無効の主張を認める」とだけ回答したものの、その他の要求はスルー。また、無効を認めると言いつつも復職にむけた措置はなんらとらないようだった。これでは実質的には解雇の有効性に拘っているようなものだ。そこで、次の段階として労働審判の申立を行うこととした。労働審判は、最大3回の期日で合意による解決ないしは裁判所の審判によって紛争の解決を図る制度であり、統計では7~8割の事案が合意によって早期に解決している。本件では解雇が無効であることは争いにならず、解雇無効を前提とした賃金の請求だけが問題となるケースなので、強い争いにならず早期解決が予見された。

 早期解決を予期していたが、結果的には予想以上に早い進展となった。労働審判の呼び出しを受けた使用者側が白旗をあげ、こちらの要求を全部呑んだことで、第1回期日前に和解できたのだった。使用者側はよほど裁判所に行きたくなかったのか、あるいは長引くほどに未払賃金がかさんで損をすると踏んだのだろう。その動機はどうあれ、早期解決を図れたのは僥倖だった。

 

 

投稿者: 弁護士石井康晶

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