2017.02.18更新

親権者指定に関するラディカルな判決

 近時、千葉家裁松戸支部が注目すべき判決をだし、話題になった。夫婦の離婚訴訟で双方が親権を主張、非監護親である夫が親権者となった暁には年間100日の面会交流を提案したところ、同支部はこの提案を評価し、夫を親権者と指定した(松戸判決)。

 控訴審である東京高裁の判断は注目されていたが、一審を破棄し、妻を親権者に指定した。おそらく、高裁の結論は少なからずの法曹が予想していたことだろう。

親権者指定の判断要素

 種々の要素があるが、列挙すると―

・監護の継続性

・従前の主たる監護者

・離婚後の養育環境

・面会交流の許容性

・きょうだい不分離

・母性優先?

などがある(母性優先に?がつくのは、現在でもはっきりこの要素が考慮されているか私には不分明なため)。このうち、重要なのは監護の継続性であり、面会交流の許容性は補充的な要素と位置づけられてきた。松戸の事件は母親が子を連れて別居を開始して以来、何年も経過している事案であったから、従前の考え方をそのまま適用する限り、母親の勝利は決まっていたようなものだった。これに対して松戸判決は、面会交流の許容性を高く評価したのだが、高裁は父母の住所が離れていたため、年間100日の面会交流が子にもたらす負担を考慮し、松戸のように高い評価を与えなかった。子の負担を面会交流の実施に当たって考慮するのは当然であるから、一般論としては高裁の考え方は指示できる。ただ、肝心の子の意見がどうなっているのかがわからないので、この事案においても妥当な判断だったかは即断しかねる。

松戸判決の影響と高裁の判断の是非

 松戸判決は面会交流の許容性を決定だとした点で画期的だったが、調停実務には悪影響も与えたと感じる。この判決以降、調停で「面会交流に協力しないため親権を取れなかった例もある」として強く面会交流の実施を促す調停委員が見られた。異例の判断、それも最高裁でもない家裁の一支部の判決を基準に語るのは牽強付会もいいところで、面会交流を原則実施しようとする彼らの思考停止にほかならないと感じる。弁護士が同席している場合でさえこのような発言が出るのだから、本人だけのときは何を言われているかわかったものではない。以前から、DVを理由として面会交流に消極的な監護親に対し、強引な働きかけがあったことは周知のことと思われるが、松戸判決はこの傾向に拍車をかけかねないものだった。

 かといって、高裁の判断に無条件に賛成することもためらわれる。監護の継続性を重視することは子の連れ去りを助長し、連れ去られた非監護親は打つ手がなくなる。子の引渡、監護者の指定という手続はあるものの、結局のところ現状維持となる可能性が高く、非監護親(男性が多いだろう)は子との断絶に悩むことになる。これまで、違法な連れ去りによって開始した監護は監護実績として考慮しないという考え方も示されてきたが、他方で、主として監護していた妻が子を連れて別居を開始するのは違法ではないともされ、「違法な連れ去り」と言えるケースは限定されている。となれば、多くの場合で連れ去りは適法になり、監護実績として考慮されることから、結局連れ去ったもの勝ちとなる。このような歪な現状は改善されないといけない。

「連れ去ったもの勝ち」を失くすには?

 私見では、連れ去り後の監護は、原則、実績として考慮しないとするほうが良いように思う。DVから逃れるためになど限定的な場合には認めて良いかもしれない(が、そうすると今度はでっちあげDVが頻発するかもしれない)。連れ去り後の監護を既得権として認める限り、連れ去り勝ちの風潮は消えないだろう。松戸判決のように面会交流の許容性を過大視する場合、DV事案等必ずしも面会が適切と言えないケースでどう考えるか苦慮しそうだ。監護の継続性は親権を判断する上で非常にわかりやすい要素で、連れ去り後の監護を評価しない場合、親権者指定は難しい作業になると思われるが、もともと家裁はそうした問題を後見的立場から決することが期待されている。調査官調査を充実化させ、対応できないか。

 ところで、単独親権だからこういう問題が起こる、共同親権なら問題ないという論調も見かけたことがあるが、そう単純な話ではないように思う。親権者指定という争いはなくなるだろうが、結局どちらが監護するかで揉めるのだから、共同親権にしたところで連れ去りはなくならないだろうし、連れ去りを監護実績として考慮する限り非監護親が不利益を受ける状況は変わらないのでないか。

 

 従前の議論に拘る限り、連れ去ったもの勝ちの状況は変わらないだろう。本件は上告中だが、最高裁がどのような判断を下すのか待たれる。

投稿者: 弁護士石井康晶

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