2016.10.12更新

1 相談~

 被害者支援団体を経由して相談を受けた。小さい男の子がわいせつな行為をされたとのことで,母親が相談のため来訪した。

事案の概要

 加害者が高校生の少年事件。ショッピングモール内で男児に対してわいせつな行為をした(強制わいせつ)。相談を受けた時点で家庭裁判所に送致され,鑑別所にいた。身柄事件である。少年の場合、成人よりも身柄拘束の期間が限られており,4週間以内に少年審判が開かれる。このときはすでに1週間が経過していた。

少年事件の難しさ

 少年事件は,処罰を目的とした手続ではなく,少年の教化,更生を目指す手続である。しかし,一般の人々には必ずしも受けいれらていない。被害者となると尚更である。感情を刺激しないように,言葉一つにも気を遣う必要がある。特に性犯罪はただでさえ二次被害を生まないように細心の注意を図る必要があるが,ここに少年事件特有の被害者の不満が重なると説明・説得も難しくなる。

 少年事件の審理を少年審判というが,少年審判は非公開で行われ,日程も開示されない。傍聴は殺人事件や,生死に関わる怪我を負った場合など,極めて限定的な事件でしか認められない。事件の当事者でありながら蚊帳の外に置かれる心情はいかばかりか。

 また,成人の刑事裁判の弁護士には弁護人,被害者側なら被害者参加人代理人という手続上の立場が与えられるが,少年事件の被害者側弁護士にはそのような地位がない。弁護士固有の権限というものがなく,被害者本人が出来ること(たとえば証拠の閲覧・コピー)を代わって行うだけで,役所に代理で書類の発行を申請するのと変わりはしない。そして,本人に出来ることも数少ない。本人に出来ることは,

① 証拠の閲覧・コピー

② 裁判所に対する意見陳述

③ 審判傍聴(生命侵害または生死に関わる怪我を負った場合)

④ 審判状況の説明

⑤ 審判結果の通知

がある。①で閲覧コピーの対象になる記録は法律記録と言われるもので,捜査から得られた証拠(本人の供述含む)が内容をなす。少年事件ではこの他に,少年の家庭や学校での様子,生育歴等に関わる社会記録があるが,これは閲覧の対象ではない。

②は,通常,被害者が主体的に事件に関わる唯一の機会だろう。裁判官や家裁調査官に対して事件に対する気持ちを伝える機会である。口頭でのやり取りが難しければ書面で述べることもできるし,口頭に加えて書面を出すこともできる(裁判所が記録に綴じ込めるのでむしろその方が良いだろう)。

④は審判当日の少年の様子,受け答えの内容などの説明を裁判所から受ける制度である。⑤は審判の内容,理由を開示する制度である。

 

こうしたオプションがあるものの,やはり不十分な感がぬぐえない。特に本人の様子を直接見る機会は極めて限られている。

さて,この件では傍聴が出来ないため,それを除いた全ての制度を使うことにした。相談ではなかなか犯行状況について聞くことは難しかったため,事件記録を見て内容を知ることにした。

*参考 弁護費用の問題~被害者の負担はゼロ?~

日弁連委託援助を利用した。これは一定の犯罪について,被害届の作成や告訴の代理,少年審判の支援などを日弁連の費用負担で支援するもの。示談などで加害者から金銭を受けない場合,被害者の実費負担はないことが多い。ただし現金・預貯金などの流動資産の合計額が200万円以下であることが必要だ。

2 支援活動

 まずは本人に代わって証拠の閲覧コピーを請求。少年が犯行の一部を否認していることがわかったが,他の証拠をみると弁解が通る可能性は低そうだ。あわせて裁判所書記官に今後の方針を伝える。今回は調査官に対して心情を述べることにした。裁判官に話しても良かったのだが,日程調整が難しかったため,このとき手空きだった調査官と会うことにした。限られた人員で事件を処理しているのは理解できるが,意見を述べたいのに「会えません」では困るのが本音だが……。

 その後,依頼者と再度打ち合わせをし,記録を見た上での見通しを説明。私の見立てでは少年の弁解は認められず,環境も更生するために十分とはいえないことから少年院送致もありえた。そして,心情を述べるためにまず本人に書いてもらうことにした。弁護士が依頼者の言葉を書面にまとめることは良くあるが,被害者支援のなかでは「心情」を伝えることが第一なので,まずは本人に語ってもらうことが大切だ。他人の整理された言葉では感銘力がない。

 この打ち合わせの時で,審判はすでに1週間後,調査官との面談は数日後に予定されていた。限られた期間の中でスケジュールをやりくりした結果だが,急ぐ必要があった。しかし,依頼者はよく頑張ってくれ,その日のうちにドラフトが送信されてきた。私もただちに校正,添削し,言葉や構成をいじらせてもらった。言いたいこと・伝えたいことは依頼者が知っている,それを上手く伝えるのは代理人の役割だ。何回か文書ファイルを往復させ,完成稿ができた。調査官の面談当日は,30分程度を予定していたが,大幅に超過して話を聞いてもらえた。そのことだけでも本人の満足感は大きかったようだ。

 ところで,この間に少年の親族から依頼者に対して何度も着信があった。警察に問い合わせると謝罪したくて電話をしてきたそうだが,1日に何度も電話を入れるのはどうなんだろうか……。少年にも弁護士が付いているので,こうしたことは本来弁護士を通して行うことだ、早速相手方弁護士に書面で連絡を控えるよう要請した。こうした加害者対応も支援の一つだ。

結 果

審判が終わったタイミングを見計らい,家裁に結果を通知するよう申請した。2週間ほどで回答あり。当初の見通し通りの結果であった。重い処分と言うことになるが,依頼者の要望は処分云々ではなく,少年が更生し,性犯罪を二度と犯さないことだ。本人が真摯に変われる努力をしていることを望む。

今回の件はスケジュールが慌ただしく,申請に必要な書類集めから証拠閲覧,調査官面談のスケジューリングなどドタバタしながらの活動だった。

この記事をご覧の方に少年事件の被害者がいらしたら,早め早めに弁護士などの支援者とコンタクトをとることをお勧めしたい。すぐにやれることはなくても,後に備えることはできる。

 

投稿者: 弁護士石井康晶

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